日本!(花祭)
No.2 花祭(その2)・・・河内、中設楽、中在家
撮影場所&日;
河内(2004・11・27&28)、中設楽(同12・2&3)、中在家(同12・12)
愛知県北設楽郡東栄町、河内・中設楽・中在家

 今回UPした河内と中設楽は東栄町11箇所の花祭の中でも、古事記・日本書紀(記紀と略す)の神話を素材にした舞があるのが珍しい。鬼面であっても須佐之男命、大国主命や猿田彦命である。また中設楽では、大蛇に生贄にされかけた奇稲田姫の舞い、その両親の手那槌命・足那槌命の舞いもある。そして他の集落では『おつるひゃら』の舞いが『岩戸明け』とされてもいる。
 ただ、『岩戸明け』の題名であるが、これまで私がUPした長畝日向神楽や高千穂神楽のように太玉命による『柴引き』や手力雄命による『戸取り』などの舞いを欠いていることから、どうも『岩戸明け』の題名が後付の感がする。
 花祭は15世紀初頭には行なわれていたようであるが、鬼面の舞いが加わったのは16世紀後半といわれる。鬼面とは“山割鬼・榊鬼・朝鬼”などであるが、それらを“須佐之男命、大国主命や猿田彦命”とするには、余程の影響力が有ったと想像できる。私は最初その時期を中設楽の鬼面の製作年月日の判明している寛政3(1792)年頃と思っていた。資料的には河内に「神道的内容の花祭祭文《神国花祭祝詞文(嘉永6=1853年)》」という戊辰戦争前の記録も存在していたからである。時はまさに、外来の朱子学・儒教に反発して日本古来からの民族性を重んじる国学の本居宣長が古事記を基にした神道への回帰を唱え、更に平田篤胤が復古神道を世に表した頃である。
 このような神道優位で仏教排斥の思想の時代精神の中で、河内・中設楽の集落の知識人や神職によって従来の神仏・陰陽道習合の花祭の改編が行なわれたのではなかろうか。。すなわち出雲を舞台にした神々や岩戸開きの導入と、湯蓋などから密教・陰陽道色の除去である、と思っていた。
 中村茂子著【奥三河の花祭(岩田書院)】などを見ると、早川孝太郎氏の研究を基にしながら、花祭に神道一色の「神道花」が登場したのは明治5年の改革、との記載があり、認識を改めた。花祭も長い歴史の中で、時代精神に乗り遅れないように絶えず流動変化していたことになる。神仏分離令を拡大解釈して廃仏毀釈まで過激に突っ走る中で、激しい動揺が花祭開催集落で起こったことが想像できる。神道を前面に出すことで、時流に乗ろうとしたのである。

 尚、「神道花」に変更したのは東栄町では中設楽と河内、豊根村花祭では間黒と坂宇場で、鬼の角を折るとか記紀由来の神々の名前を付けなかった花を「仏花」と称する。

参考文献;
   【東栄町誌(伝統芸能編)】東栄町誌編集委員会
   【花祭論】愛知大学綜合郷土研究所:岩田書院
   【花祭】早川孝太郎:岩崎美術社
   【古事記】岩波文庫
   【日本書紀】講談社学術文庫
   【神道祭祀】真弓常忠著:朱鷺書房
   【奥三河の花祭】中村茂子:岩田書院


【辻固め(中在家)】
舞いに先立ち花宿(舞台)周囲を神聖な場所と定める門締めの神事である「辻固め」が五色の御幣や供物とともに奉納される。
この五色であるが、陰陽五行説の五色で、この五行説の「木火土金水」が万物を生成せしめて、かつ変化する事象を表しているとされれる。五色は密教でも五大明王やあるいは如来・菩薩・明王などを現すともされ、陰陽道だけでなくて仏教・密教にも関連していると思われます。花祭は、神道・陰陽道に密教などが複雑に絡まった精神世界です。

【一力花】
竃の上に飾られる湯蓋(白蓋)の横の小型の飾りが一力花です。湯蓋には神が宿り村を守りますが、一力花は個人的な祈願をかけて奉納されます。一力花舞が奉納と願掛けされた個人のために舞われ、その後にはこの一力花は自宅に持ち帰って飾られます。


(竃脇の御幣;河内)

(湯蓋・ざぜち・一力花;河内)


(一力花を持ち帰る;中設楽)


(花ノ舞)


(四ツ舞;中設楽)

(三ツ舞;河内)


(三ツ舞;河内)

(一力花;中設楽)

東栄の山に舞う(中設楽)


【記紀】
記紀の神話で、出雲で活躍する天津神や国津神が河内・中設楽で登場するのは嬉しい。面相は中設楽では鬼であるが。。。
高天原を追放された須佐之男命は出雲肥河の川上に辿り着いた。そこで泣いている老夫婦に出会う。手那槌命・足那槌命である。
八俣遠呂智(大蛇)に今年生贄にされる娘の奇稲田姫を嘆いているのだ。須佐之男命は策を用いて大蛇退治をする。酒を大蛇に飲ませて前後不覚に陥れてから退治するのだ。大蛇に酒を飲ませるシーンが、舞われる。花祭のハイライトである。


手那槌命・足那槌命(中設楽)

奇稲田姫(中設楽)


八俣遠呂智(大蛇)退治


大国主命(河内)

須佐之男命(中設楽)



須佐之男命の伴鬼(中設楽)


榊鬼と伴鬼(中在家)


【湯ばやし(中設楽)】
「延喜式」には陰陽道の祓具が神道の祓神事にも用いられ、陰陽道と神道の習合が古来よりみられたようである。
中世において陰陽道を神道の行法・祭祀に取り入れたのが「吉田神道」で、「伊勢神道」にも陰陽道は影響を与えており、花祭成立期の宗教思想にも山伏密教と共に大きな思想的影響を与えたと思われる。
密教でいう五大の「地水火風空」の存在するところに湯が沸き、そこに神々が降臨するのであるが、その神威ある湯を浴びることで神徳を得られる・・・これが「湯ばやし舞」である。が、私は神道の禊祓いを連想させる。穢れを祓い、清く再生していくという意味では、鬼の登場する追儺も修正会も大祓であるし、怨敵退治で穢れを退治する八俣遠呂智(大蛇)退治さえ大祓に通じるものがあると思う。


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Last Updated  2010-01-01