《能と写真》 能は室町幕府三代将軍義満の庇護を受けた観阿弥・世阿弥親子が完成させたといわれる。 完成、、、実際には両親子の確立後600年の間に、絶え間ざる変化を時間の経過と共に受けてきた。 舞台のスタイルも今日の「能楽堂」は、明治後からだから、能の長い歴史のほんの一部である。 能楽堂では演劇やコンサート同様に、見所(客席)での飲食や写真撮影等は禁じられている。 他人の迷惑になるだけでなく、能の世界に集中して拝見しようと思えば障害にもなりうる。 これは能装束の衣擦れの音さえも聞こえる能楽堂という、静寂が確保された能と対峙する空間だからこそそうである。 私自身は能楽ファンでもあり、自分が稽古舞台に立った時以外の写真は無く、同時に写真ファンとしては何時か能舞台の撮影のチャンスがないものかと思っていた。 今回UPした「名古屋城夏祭り」での薪能は、実は18年も前から開催されている。 場所は天守閣前広場を、特別に囲い込むことなく、各種イベント目当てに来た通行人でも歩きながら能が見えるし、気が向けば屋台の団子やジュースを飲みながらでの観能が出来、事実そのようなお客さんは多い。 このようなオープンスペースであるから、飲食や携帯で撮影されるお客さんなど、能楽堂とは異なった気軽な雰囲気がある。能楽堂は、拝見する意志を持って出向かなくてはならない。が、ここではちょっとしたキッカケで、これまで無縁だった人も能の素晴らしさに触れ、自由に写真撮影で記念に残すことができる。 能楽堂という囲まれた器ではなく、この開放感も、演能の長い歴史の一ページに加わっていくのではなかろうか。 演者の方々も主催者の方々も、能楽堂では考えられない飲食や撮影を認めてらっしゃるのは、広く能の魅力に触れて欲しいとのお気持ちと思う。 かといって、演能がお気軽では絶対無く、緻密で気迫に満ちた満足する上演である。ただ、静寂が欲しい、あるいは短縮されてない能が拝見したい向きは能楽堂への一歩であろう。 ファインダーを通しても集中力を感じる演能は、客席最後部のさらに後ろからノーフラッシュで撮影させて戴きました。 能の素晴らしさのほんの断片でも御高覧戴けましたなら、幸いです。 能は実際には、写真や本ではその素晴らしさは理解できないので、ぜひ実演にも触れて戴けましたなら「日本!」の美を感じることができることと思います。 |
能【冨士太鼓】 内裏で行われる管弦の太鼓の役を希望した冨士は、上洛してライバルの浅間に討たれます。 夢見の悪さに上京した妻子は、事の次第を聞き遺品の舞衣装に涙します(写真1)。 このようになったのは太鼓のせいだ、と娘に太鼓を仇と打たせます(写真2)。 やがて妻も狂気にとりつかれ、太鼓を怨念篭めて打ちますが(写真3)、やがて正気に戻り国へ帰ります。写真3のシーンは、亡き冨士が憑霊したかにも見えます。 |
能【半蔀】 紫野雲林院の僧が仏に供えた花々の供養をしていると、女がやってきて五条あたりの夕顔の花と述べて消えます。僧が五条へ行き『源氏物語』の夕顔を偲んでいると、家(半蔀)の中から女性が出てきます(写真1)。夕顔の亡霊です。夕顔は源氏との恋を回顧して舞を舞います(写真2,3)。夜明けの鐘と共に夕顔の姿が消えたかと思ったら、僧の夢でした。 |
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能【鉄輪】 夫が新しい女にはしり、前妻は怨みを込めて貴船神社に丑の刻参りに出かけます。そこへ社人が現れ、呪詛成就に女が来ると神託があったことを伝えます。女は動揺し、傘を落として(写真1)走り去ります。 前夫は最近、夢見が悪いので安倍晴明に占ってもらうと、生霊が怨念として取り付いているとのことで、祭壇を設けて呪詛祓いを始めます(写真2)。やがて怨みで悪鬼となった女が祭壇に現れ(写真3)、やがて調伏の力に負けて退散します。 |
(写真1)
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![]() (写真3) |
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能【杜若】 都から僧が三河へ来ると、杜若が美しく咲いています。見ていると何処からともなく女が現れ、昔に在原業平が杜若にちなんだ歌を詠んだことを語ります。不思議に僧が思うと女は杜若の精で、在原業平の詠歌の功徳で成仏することが出来た、と語り舞を舞って消えうせます。 |
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能【殺生石】 玄翁という高僧が那須野で鳥が上を飛ぶと落ちる石を見かけます。里の女が現れ、岩の由来を語ります(写真1)。 昔、鳥羽院に仕えた女官の玉藻ノ前は才色兼備であったので気に入られていたが、実は帝の命を狙った妖怪であった。正体を見破られ、妖怪は那須野まで逃げたところで射殺されて、岩に変じたということです。高僧が供養を始めると岩が割れ(写真2)、妖怪の正体の野干が現れ、都を逃れてから射殺されるまでを再現して舞ますが(写真3)、最後には成仏します。 |
(写真1)
![]() (写真2) |
![]() (写真3) |
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Last Updated 2008-07-28